マッカラムの「五つの誤解」論文を読む [ 全レストップページ ]

1 名前: ドラエモン [2007/05/13(日) 23:32:10] ID:O [TB]

やってくれました、マッカラム先生。

http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/2006/yoyaku/kk25-4-3.html

の内容たるや、かつて苺で散々に議論していた結果とほとんど同じです。
過去の議論の整理も含めて、内容を解説していきたいと思いますのでよろしく。

2 名前: ドラエモン [2007/05/13(日) 23:33:11] ID:O [TB]

今日のところは、要旨のみをご紹介。

要 旨
本稿は、ゼロ金利制約に関する以下の5つの命題について再検討し、これら
の命題はみな誤りであると主張する。(i)ゼロ金利制約下では、「将来の金利
経路に関する期待に働きかけることが中央銀行の有する唯一の手段である」
(Bernanke, et al.[2004])。(ii)理論的にいって、「ヘリコプター・ドロップ」
のような財政政策のほうが金融政策よりも効果的である。(iii)有名な「流動
性の罠を脱出する確実な方法(Foolproof way)」(Svensson[2001, 2003])の政
策ルールのほうが、代替的な為替政策ルール(McCallum[2000])に比べア
ンカバーの金利平価が厳密に成立している場合でも適用できる分、一般性が
高い。(iv)上記(iii)にあるような為替政策はともに「近隣窮乏化」政策であ
るとの反対を受ける余地がある。(v)「流動性の罠」型と異なり、「デフレの罠」
型の均衡には、ゼロ金利制約に伴う重大な危険がある。

3 名前: deleted [2007/05/14(月) 18:18:11] ID:48 [TB]

早速プリントアウトしましたが、独学者なので。(i)ゼロ金利制約下では、「将来の金利経路に関する期待に
働きかけることが中央銀行の有する唯一の手段である」(Bernanke, et al.[2004])。 
からどうして違うのか分かりません。これはリフレの否定ですか?

4 名前: ドラエモン [2007/05/14(月) 22:03:18] ID:O [TB]

p.39 4行目で金利を変更せず(あるいは変更できないとき=ゼロ金利制約に引っかかっている場合)の政策効果は、Bernanke and Reinhart[2004]85頁から、以下のように要約されて居ます。

(a)将来の金利経路に関する期待の形成に働きかける。
(b)中央銀行のバランスシートの構成を変える。
(c)中央銀行のバランスシートの規模を拡張する

言うまでもなく、(a)が多くの論者によって「ゼロ金利のコミットメント」と呼ばれているものでしょう。そして、これがEggertsson and Woodford[2003]のいう「期待の管理(the management of expectations)」と言われるものに相当します。

つまり、マッカラムが「誤解」と指摘しているのは、(b)、(c)は有効ではなく(a)のみが有効であるという主張なのです。

5 名前: ドラエモン [2007/05/14(月) 22:09:53] ID:O [TB]

量的緩和は無効であるとするE&Wの主張は、E&W[2003]が使用する「量的緩和」とは金利がゼロであるときは必ず追加的な公開市場買入を行うが、利子率がゼロを超えると即座に売戻されるというものであるという点にあるため、量的緩和自体は金利がプラスである状態と同じ政策ルールの帰結に過ぎないということです。そして、合理的期待均衡を計算すれば分かるように、均衡はルールによって決まるのですから、同じルールの中で行われる量的緩和はそれ自体ではなんら均衡を変化させないということになるわけです。

6 名前: ドラエモン [2007/05/14(月) 22:12:48] ID:O [TB]

すなわち、「E&Wの分析で重要なのは、利子率だけではなく、将来の経済変数に関する期待一般に働きかけることである。特に、将来の通貨集計量もしくは物価水準に関する期待が、代替的に期待管理のターゲットとなりうる。Svensson[2004]はこの点をとても効果的に発展させた。」ということになり、「金利の将来経路以外にゼロ金利下で金融政策の効果の経路は存在しない」という主張は、実は出てこない(それ自体は有効だが、それ以外にもある)ということになるわけです。

7 名前: すりらんか [2007/05/15(火) 02:47:08] ID:7 [TB]

わわ♪
お久しぶりです!

(a)のみが有効という話ははなから「?」と思うのが素直な反応だと思います.(a)は(b)(c)で表されるマネー量の価格ですからそっちにコミットしても同じなはず.

とりあえずちゃんと呼んでから僕も参加します!

8 名前: deleted [2007/05/15(火) 16:24:15] ID:48 [TB]

現行の政策ルールと新しい政策ルールというのがキーワードだと思います。この条件がマネタリーベースの量が
関係あるかどうかということですが、新しいルールが信認を得られなければならない、という条件付ですね。
6ページの「将来決してゼロ金利に陥らないような政策ルール」が信認を受けるには何度か金利を上昇させる
ようにしなければただの脅しと評価される恐れもあると言うことですか?

9 名前: ドラエモン [2007/05/15(火) 20:13:15] ID:O [TB]

>deleted さん

>現行の政策ルールと新しい政策ルールというのがキーワード

その通りですね。

>新しいルールが信認を得られなければならない

これも、その通り。で、信任が得られれば、足下のマネタリーベースの量はどうでも良い(笑)こう言ったら「オカルト」と言われましたが(あるいは念力インタゲw)、こっちがなんと正統動学マクロ的な主張なんですねぇ。

>何度か金利を上昇させるようにしなければただの脅し

ではなくて、十分高いインフレを将来にわたり維持することが政策目標として信任されると、金利はゼロではあり得ないということでしょう。

10 名前: ドラエモン [2007/05/16(水) 00:53:06] ID:O [TB]

さて、誤解1のクライマックスに若干の手を加える(『』内)と(笑)、

==============================

『日銀が採用した量的緩和』は中原ら『リフレ派』の提案に応えるかたちで導入されたものである。これら『リフレ派』は、貨幣創造とともに、非正統的な資産の購入も視野に入れていたため、彼らの提案は実際のところ方法(b)と(c)を一緒に適用するものである。

1990年代後半までには、ゼロ金利制約のもとではマネタリーベースと短期国債はほとんど完全代替であるので、これら資産の公開市場買入には緩和的効果がないであろうことが広く理解されていた。加えて、彼らの提案は、現在と将来にわたってデフレを回避するような政策運営を行うことに日本銀行がコミットすることを意図していたと思われる。したがって、彼らの提案は、(もし信認が伴えば)理論上は(方法(a)を通じて)効果的であったかもしれないような、上述のルールの変更を意味していたと解釈されるかもしれない。

日本銀行の1999〜2005年にかけてのバランスシートの大規模な拡張が、どの程度これらの提案に見合うものであったかは、継続して議論されるべき問題である。

==============================

要するに、『量的緩和』が、本当のところリフレ政策だったのか、あるいはゼロ金利で制約されていただけの従来の政策ルールの中でのものに過ぎなかった(から有効ではない)のかは、まだ決着の付かない論点ということですな。

言うまでもなく、日銀自体は従来のルールを踏襲しただけであったわけだが、「デフレ脱却に真剣な人」という小泉氏の総裁選びの基準と、テイラー・溝口の無制限円売り介入という「そんなのあり得ない」と僕が批判されたのの実行が組み合わさって、結果的にある程度の有効性を持つ政策ルールの変更になっていた可能性も否定できないという事でしょう。

11 名前: deleted [2007/05/16(水) 12:48:51] ID:48 [TB]

話ぶり返すようで申し訳ないのですが((v)「流動性の罠」型と異なり、「デフレの罠」型の均衡には、
ゼロ金利制約に伴う重大な危険がある。 に関係あると思うのですが)クルーグマンは日本が流動性の罠に
あると言っていましたが、岩田規久雄「金融」によると長期金利がゼロではないことを理由に流動性の罠で
はないと書いてあったので、どう判断すればいいのですか?ISLM曲線の金利は長期金利(例えば10年国債)
等で見ますよね?翌日短期レート物だけでゼロ金利としてよいのですか?

12 名前: ドラエモン [2007/05/16(水) 21:13:29] ID:O [TB]

>>11

まあ、待て(笑)それは、最後の論点だから。

13 名前: ドラエモン [2007/05/17(木) 22:10:59] ID:O [TB]

誤解(ii)

理論的にいって、「ヘリコプター・ドロップ」のような財政政策のほうが金融政策よりも効果的である。

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これは随分と言われてきた批判ですな。確かに、お札刷ってくれてただで呉れれば、僕なんか使ってしまいそうですが(笑)

もちろん、ヘリマネを実施する政府と、その資金を提供する中銀の間で、実際には債券が取引されるはずですな。そこで、マッカラム先生は、バロー・リカード命題を思い出させる。つまり、政府は結局は赤字国債を増発して日銀引き受けさせるだけだろうというわけね。ところが、バロー・リカード命題によれば、赤字国債でファイナンスした減税は民間の純資産を変化させない(将来所得の現在価値を変えない)から、消費に影響しないわけだ。

こうして総需要は一定であるから、ヘリマネの効果=マネーを出した効果+総需要拡大効果の後者はゼロであり、結局はマネー出した効果しか残らないということになる。

14 名前: ドラエモン [2007/05/17(木) 22:27:04] ID:O [TB]

で、「背理法」を言い募る人には(含む儂w)には、少々耳の痛い主張が次に出てくる。

>このような政策手段を継続的に用いることに関してである。この実
>験的政策のもとでは、もしインフレを生じさせる効果がなければ、
>名目貨幣残高が無限に増加していくので、ヘリコプター・ドロップ
>が継続的に行われていれば、横断性条件に反することにならないか。

要するに「背理法」は、横断条件に他ならないということを明らかにしているわけね。まあ、これは背理法の数学的表現を明らかに下に過ぎない。問題は、

>ゼロ金利制約に関する分析は、概して、経済は定常状態で正の名目
>利子率をとると仮定しており、何らかの負のショックを受けた結
>果、一時的に経済がゼロ金利制約に陥ると仮定されている。
>このような場合、この経済は有限の将来のいずれかの時点で、ゼロ
>金利制約から自力で脱出し、その後pt はmtと歩調を合わせて上昇
>傾向をたどるだろう。横断性条件は、無限の将来にだけ関連するも
>のであるので、ここで検討しているような問題に関しては当てはま
>らない。

ここです。実は、小野モデルは定常状態で無限の貨幣需要を効用関数に関する特殊な(小野先生、スイマセン)から導いている。つまり、マッカラムの言う「ゼロ金利モデルの通常の仮定」を満たしていないのである。だが、普通のモデルでは、背理法は無限の彼方での問題であり、ゼロ金利にある過渡的な状況とは直接関係ないということになる。これは、横断条件を満たしている経路と満たしていない経路が、政策変更のあとどれくらい長く見分けの付かないものになるかという問題。DGEモデルのカリブレーションをやってみるとわかるが、実はこれは十二分に長い期間である可能性がある。つまり「背理法」を根拠にして、急速なデフレ脱却を言うのは、かなり問題のある主張ということになってしまうorz

15 名前: deleted [2007/05/21(月) 23:16:28] ID:48 [TB]

すいません。バロー命題は実際支持されている法則なのでしょうか?
おニューケイジアンであれば時間的に短期であれば有効となるのではないですか?

16 名前: 名無しさん [2007/05/22(火) 10:45:36] ID:2h [TB]

>バロー命題は実際支持されている法則なのでしょうか?

データで見ると、半分位しか成立してないようにみえるようです。
また流動性制約が有効であるある場合には、家計も企業も手持ちの
現金の大きさで支出が制約される、要するに結果としてはケインズ
的な有効需要の原理(支出は同時点ないし過去の収入で制約される)
が部分的に成り立つわけで、完全なリカード・バロー命題は成立
しないと考えてよいでしょう。

ただし、ここでの議論は、ヘリコプターマネーの効果が相当に減殺
されるということが明らかなら、見当はずれな指摘というわけでは
ないことになると考えます。

17 名前: 名無しさん [2007/07/07(土) 11:26:03] ID:53 [TB]

銅鑼さまんの解説の続きキボン

11 名前: deleted [2007/05/16(水) 12:48:51] ID:48

話ぶり返すようで申し訳ないのですが((v)「流動性の罠」型と異なり、「デフレの罠」型の均衡には、
ゼロ金利制約に伴う重大な危険がある。 に関係あると思うのですが)クルーグマンは日本が流動性の罠に
あると言っていましたが、岩田規久雄「金融」によると長期金利がゼロではないことを理由に流動性の罠で
はないと書いてあったので、どう判断すればいいのですか?ISLM曲線の金利は長期金利(例えば10年国債)
等で見ますよね?翌日短期レート物だけでゼロ金利としてよいのですか?

マッカラムの「五つの誤解」論文を読む [ 全レストップページ ]